コロナ禍を経て、人々が集い顔が見える関係の大切さを、誰もが痛感しました。そんな中、地域とつながるコミュニティとして、商店街の力を再認識されている方も多いのではないでしょうか。
2023年度は、商店街への訪問や勉強会を通して、商店街の未来をともに考える「商店街これかラボ」や、新しいアクションプランの創出を目指す4ヶ月間の連続プログラム「商店街ジャンクション」などの取り組みを行ってきました。
そして1年間の集大成として、2024年2月12日に「京都商店街創生フォーラム2024(以下、フォーラム)」を開催しました。
2018年度から始まったフォーラムは、今回が6回目。京都経済センター3階のオープンイノベーションカフェ「KOIN」を会場に、定員の100名をはるかに超える、136名の参加者が集いました。
会場を見渡してみると、商店街関係者や、商店街に外から関わる事業者の方、大学生など、参加者は様々。肩書や立場の違うそれぞれが、「商店街」というキーワードでつながり学び合う4時間となりました。
開会に先立って、主催者から開会の挨拶。「『店』から『面』へ、ストリートからコミュニティ空間へ これからの商店街のカタチ」をテーマに掲げ、4部のプログラムにわたるフォーラムが幕を開けました。
「商店街はこれまで多くの方が知恵を出して、少しずつ地域の顔として成立してきたし、
今後もそういう風にして発展していくのでは」
「コロナ禍を経て思うことは、皆様と商店主が話をしながら買い物ができるという、顔の
見える関係性の大切さ」
フォーラムの趣旨やセンターの事業説明。
第1部:オープニングトークタイム
最初のプログラムは、赤羽孝太さんによるオープニングトーク。
「私たちは、商店街を概念だと捉えています」という赤羽さんは、長野県辰野町に点在する飛び飛びの商店を「トビチ商店街」と名付けて活動されています。
トビチ商店街が動き出したきっかけは、2019年12月7日に開催されたイベント「トビチmarket」。辰野町にある21の空き店舗や空き地を使ったマーケットを企画し、県内外から53店舗のお店が出店。町内外から4000人を超える人たちが、寒さ厳しい冬の辰野町を巡り歩いてくれたのだそうです。
「トビチmarketのコンセプトは、『10年後の1日を前借りする』。商店街でイベントを企画するとき、歩行者天国にしたり、場所を貸し切ったりすると思います。ですが僕たちがつくりたいのは、10年後の楽しい日常なんです。毎日歩行者天国はしませんし、10年後の日常であり得ないことはしないというのをルールにしました」
辰野町は、人口2万人ほどの町。商店街には店舗兼住宅が多く、すでに店をたたんだオーナーさんも住み続けていると言います。
「活気のある商店街と聞いて、シャッターが全部開いている光景をイメージする方も多いと思います。しかし、辰野町でそれをしようとすると、住んでいる人に出ていってもらうか、もう一度お店を始めてもらうかの二択になってしまう。私が考える商店街の本質的な価値は、歩いて巡るのが楽しいこと。自分のお気に入りのお店や場所があれば、例えシャッターが開いていなかったとしても、商店街を楽しめます。新しくオープンしたお店を目立たせてくれるという意味では、閉まったままのシャッターにも大きな価値があるんです」
2021年度に始まったトビチ美術館企画。空き家・空き店舗を使って⾏うことで多くの
⼈に⾒てもらう機会を増やし、商店街との新しい接点を生み出しています。
自分たちにも価値があると思ってもらえれば、住んでいる方の気も楽になる。大切なのは、空き家・空き店舗になったときに、きちんと応募が集まるような、適切な循環が生まれること。そして一番大切にしていることは、やり抜くことだと、赤羽さんは話を締めくくりました。
「こうやったら良いじゃないかと、アイデアを持ってきてくれる人はいます。でも、やらなければ一ミリも進まないんです。商店街に一番不足しているのは、アイデアマンではなく、やる人。小さくても良いから行動することの方が、価値があると考えています。週に1日だけお店を開いてみるような、小さなアクションからでも大丈夫。やってみて良かったら、ホップステップジャンプでいいと思うんです」
商店街という言葉が持つ既存の概念を拡張し、新たな価値観で商店街を再編集する赤羽さん。和やかに進められるトークのあちこちには、これからのヒントが散りばめられていました。
第2部:トークセッションタイム
第2部のトークセッションには、京都府内の各エリアで活躍する方々が登壇しました。
舞鶴市にある「ひらのや商店街」で活動する大滝雄介さんは、本業の工務店を経営する傍ら、2012年にまちづくりチーム「KOKIN」を発足。地域経済・観光振興・人材育成を軸に、町家を改修したゲストハウスの運営や、チャレンジカフェを通した場づくりを行っています。2023年度の「商店街これかラボ」では、ゲスト講師も務めました。
2016年度から2021年度にかけて、長岡京にある「セブン商店会」の会長を務めた林定信さん。会長に就任当初、30に満たなかった商店街の会員店舗数は、任期が終わる頃には約80店に。元気な商店街として注目を集めるようになり、2018年開催の第1回目の商店街創生フォーラムでも、トークセッションに登壇いただきました。
亀岡市で活動する並河杏奈さんは、新卒で入社した会社で「H商店街」の活性化事業に携わりました。そこから得たアイデアをもとに2020年に立ち上げた一般社団法人Foginでは、農家さんや様々な作り手の方と亀岡市の魅力を発信する「Harvest Journey Kameoka」というコミュニティ・ツーリズムの取り組みを展開しています。
それぞれの自己紹介の後は、第1部のゲストである赤羽さんを交えて、商店街との関わり方について語り合いました。
大滝:僕も空き家活用について相談をいただくことは多いのですが、赤羽さんがエネルギーをかけて色々な方と関わり、商店街を盛り上げていくモチベーションは、どういったところにあるのでしょうか?
赤羽:実は僕がやっている不動産事業は、売上全体の10分の1くらい。ビジネスと呼べるほど大きなものではありませんが、なぜやっているかと言うと、自分のためというところが大きいですね。社会人になったら、なかなか友達ができないじゃないですか。友達になりたいと思った人は、僕の全部のリソースを提供する「えこひいき」をしています(笑)
林:第1回目のフォーラムで基調講演をされた木藤亮太さんは「ないものねだりをするのではなく、あるもの磨きをしよう」と語られていました。皆さんも限られた資源を活用して頑張っていますが、新しくお店をやろうとして、挫折された方もいらっしゃるのでしょうか。
赤羽:トビチ商店街で開店したけれど、撤退された店舗も複数あります。キッチンカーで出店して日本全国に旅立った方もいますし、別の町に拠点を移された方もいますね。私たちは商店街を概念と捉えているので、里山にあるパン屋さんも山奥の古着屋さんも、関わりがある方々はみんな「トビチ商店街」の店主のように親しんでいます。
並河:トビチ商店街とつながりができたことで、私の知り合いも移住したそうです。外から来やすい場所になることについて、地元の方はポジティブに感じていらっしゃいますか?
赤羽:辰野町は人口が減少しており、トビチmarketを企画したときも、どこか諦めたようなムードが漂っていたように思います。しかし4000人くらいが来場するとなったとき、地元の焼き鳥屋の店主さんから「もっと我々もしっかり考えなきゃいけない。まだできることがある気がする」と電話をいただいたんです。空き家や空き店舗ができても、また誰かが入ってくれるかもしれないという空気感は、少しずつ生まれているように感じています。
並河:町全体を見たとき、商店街がどんな役割を担っているのか。エリアマネジメントの発想で考えていけると、商店街という枠組み以上に土地の魅力を発見していけるのかなと感じました。 私は空き家や空き店舗を発掘していきたいというフェーズにいるので、皆さんの話を受け、亀岡市でもそういった取り組みをどんどんとしていきたいなと思いました。
林:「まちゼミ」「バル」「100円商店街」は、商店街活性化のための三種の神器と呼ばれています。しかし皆さんのお話を聞いて、そろそろ新しいフェーズに来ているのかなと感じました。まとめるなら、1つ目としては地域との絆。市民や団体、企業も含めたコミュニティづくりがとても大事ですね。2つ目は、商店街としての独自の情報発信と共有。3つ目は、個々のお店を磨くこと。コミュニティやエリアが活性化しても、やはりそれぞれのお店の魅力がなければ、と思います。
大滝:商店街には、起業しやすいというハードとしての魅力があります。それに加えて、チャレンジしている人がいる場所には、次のチャレンジャーも入ってきやすいと思います。ひらのや商店街にも、50代、60代になっても挑戦されている方がすごく多い。一人ひとりが挑戦していくことが、長い目で見たらその町の活性化につながりますし、私もこれからたくさんチャレンジをしていきたいです。
4人でのトークセッションの最後に、赤羽さんは「商店街は、暮らしにすごく近い場所にあるはず」と話しました。
赤羽:今日会場にいらっしゃる参加者の皆さんも、自分が暮らしている身近なところが豊かになったら、嬉しいはずですよね。地域の特色や強みを上手に使いながら、どうやったら暮らしが良くなるのか、どうやったら商店街が良くなるのか……。それは、皆さんがそれぞれ考えて、頑張るしかないのかなと思います。
第3部:活動プレゼンテーションタイム
第3部では、京都内外で商店街に関わる10組のプレゼンテーターが2つの会場に分かれ、それぞれ7分間の発表を行いました。
登壇者の皆さんは、次の通りです。
開場① 司会:
プレゼンタイトル | |
1 |
商店街の楽しみ方〜ランチングエコノミーを通して〜 |
2 |
膳所におけるマルシェ開催と商店街に向けてできること |
3 |
地方の小規模商店街が行う、”機会”を活用した取組 |
4 |
生成AIで作るアートと商店街で生み出す新しいエンタメ |
5 |
商店街×ミステリーツアーによる新しい関係性づくり |
会場② 司会:
プレゼンタイトル | |
1 |
学生の私たちが2年間活動して気づいたこと〜たぶん学生には3種類あんねん〜 |
2 |
京都の商店街で創業した「インクルーシブまちづくり会社」の物語 |
3 |
多世代の堀川人が活躍する新たな堀川商店街のカタチ |
4 |
絵本づくりで自己肯定感を高め、誰もがチャレンジできる取組 |
5 |
商店街ジャンクションを通じて、商店街が元気になるような取組 |
ここでは、3組の事例を取り上げます。
最初に紹介するのは、京丹後市の峰山町・金刀比羅商店会で活動する増田知裕さん。長さ約200メートル、幅50メートルにわたって連なる金比羅商店会は、「金刀比羅神社」のお膝元として栄えた歴史ある商店街です。
増田:金刀比羅商店会では、2023年度の取り組みとして街路灯の改修を行いました。補助金をきっかけにできた京都府との関係から「WEラブ赤ちゃんプロジェクト」への協力依頼をいただいたのですが、この機会に乗っかって、自費で子育て支援事業(親子で来店されたお客さんなどに、ミニ色鉛筆セットを配布)に取り組んだり、新聞折り込みチラシやHPで事業を広報してみたりしました。それぞれを単独で行うとPR効果は薄いですが、舞い込んできた機会を活用することで、より成果を上げることができました。
大型店の進出やネット通販の拡大で市場での競争が激化する中で、現状を打破するため、2つの着眼点があると思います。1つ目は、営業を続けていられる理由を考えて、それを最大化すること。2つ目は、力の差をできるだけ縮めていくこと。しかし個々のお店でできることは限られているため、商店街としての活動が今後ますます必要になってくると考えています。
次に紹介するのは、京都市の京都三条会商店街で、AIアートのスクールを運営する竹内智章さん。現在スクールには、5歳から60歳以上の幅広い世代の方々が、100名弱ほど通っているそうです。
竹内:世の中にあるエンターテイメントやサービスは、「レストラン型」と「バーベキュー型」の2種類に分けることができます。前者は非日常的な品質やクオリティを、後者は自分自身が参加できる体験を楽しむものです。ところが近年急速に発達した生成AIは、使い方によっては、小さな子どもでもプロ顔負けの作品を生み出せるようになりました。自分たちで作るバーベキューなのに、レストランより美味しい料理ができるようになったのです。
AIアートは、誰でも簡単にすごいものが生み出せるので、参加者が多種多様であればあるほど面白くなります。だから、日常的に様々な方々が集まる商店街と、AIアートとの親和性は非常に高いと思っています。AIアートは、親子揃って楽しんでいただけます。商店街でアートに関するイベントをやりたいなと考えている方々は、ぜひAIアートにも取り組んでいただければと思います。
「商店街ジャンクションを通じて、商店街が元気になるような取組」
最後に紹介するのは、ひらのや商店街の福原習作さん、宇都宮信人さん、畑利彦さん。今年度の「商店街ジャンクション」に参加し、新しい企画とアクションプランをつくりました。
畑:私は商店街のイメージキャラクターづくりを企画しました。子どもたちに商店街を歩いてもらい、どんなものがキャラクターになるか考えてもらいます。私はデザイナーをしているので、大型モニターで見ながら、その場でブラッシュアップ。完成したキャラクターは、実際に使ってあげたいと思っています。
宇都宮:私は京都映画センターで働いているので、商店街での映画上映を考えました。ただ上映するだけではなくて、作品に合わせて商店街を飾り、映画の前後も記憶に残るようにします。「あの映画、楽しかったな」という思い出づくりが、地元の町でできたら、すごく幸せなことです。
福原:お二方のアイデアは、2024年度のイベントで実施したいと考えています。普段商店街に来られない方が、出向いてくださるきっかけになればと。商店街が中心となって、地域が元気になる取り組みを進めていきたいと思っています。
第4部:ダイアログタイム
3部にわたったトークの後は、いよいよ最後のプログラムである、ダイアログタイム。フォーラムのこれまでを振り返りつつ、参加者が商店街のこれからについてを、自分ごととして考えていきます。「仲間づくり」や「SNSの活用」など、それぞれが話したいテーマを紙に書き、数名のグループに分かれて意見を交わしました。
フォーラムの最後に、本日の登壇者が一言ずつ感想を語っていく中、途中でマイクが渡ったのは木藤亮太さん。第1回のフォーラムで基調講演を務めた木藤さんは、参加者の一人として会場に来ていました。
木藤さんは、フォーラムのことを「同窓会のよう」と語りました。京都内外からも参加者が集まっていたため、初めて顔を合わせる方も多かったこの日。しかし時間が経つほど、会場で目にする笑顔がどんどんと増えていきました。
それぞれの地域と、そこに暮らす人々の生活に密着した、商店街という場所。この日集まった100名以上の参加者一人ひとりが、商店街のかたちや関わり方を考えました。回を重ねるごとに、どんどんと熱気が増している京都商店街創生フォーラム。地域の垣根を越え、商店街という言葉でつながった今回のフォーラムをきっかけに、これからますます全国で活動が活発になっていくことでしょう。