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【イベントレポート】商店街ネットワークサロンvol.4_デザインや地図活用による商店街の可能性
2020/01/17

今年度から始まった「商店街ネットワークサロン」(以下、商店街NS)。

商店街NSは、京都府内の商店街、事業者、学生、府民が集まり、連携や交流を深めていただく機会として全4回開催するもので、2020年2月には京都経済センター(京都市)で「商店街創生フォーラム」の開催を予定しています。

第4回は、建築やまちづくりに関するイラストマップを手がける手描き図面工房マドリズ」間取図クリエイターの大武千明(おおたけ ちあき)さんと、デザイナーとして地域の活性化に携わる「KEYDESIGN」主宰のすみかずきさんをゲストに迎え、12月3日に山城エリアで開催。宇治市の宇治商工会議所に商店経営者、事業者、まちづくりに関わる人などが約40名集まり、デザインや地図を通した情報発信のあり方について考えました。

まず初めに、参加者同士で活動紹介や、商店街に対する思いを共有し合いました。情報発信に課題を感じている方や、商店街のチラシや地図をつくりたいと考えている方もたくさん参加しています。

イベントの司会進行を務めるのは、商店街NSの企画・コーディネートを行う(株)ツナグムのタナカユウヤさん。タナカさんから本イベントの開催趣旨や、京都府内各地の商店街活性化の取り組みを紹介後、お待ちかねのゲストトークの時間が始まりました。

見て楽しい、歩いて楽しい手描きイラストの魅力

大武 千明氏(手描き図面工房マドリズ・間取図クリエイター)
1985年愛知県生まれ。豊橋技術科学大学大学院修了。一級建築士。商店街で生まれ育ち、大学院では商店街の景観整備事業に携わる。住宅メーカーに就職し、手描き図面作成スキルを身につける。2013年に京都へ移住。2016年に著書「ひつじの京都銭湯図鑑」(創元社)を出版して以降、建築・まちづくりに関するイラスト等を請け負う。2018年に間取図クリエイターとして独立。
HP:https://madori-zoo.tumblr.com/

愛知県豊橋市にある商店街で生まれ育った大武さん。大学院生の頃、商店街のハード改修プロジェクトへの参画や、月一で開催されていた商店街イベントへの参加を重ねるなかで「まちづくり」という仕事について、現場での学びを深めていたそう。

大武:大学院生の頃、日本三大稲荷のひとつ「豊川稲荷」の参道沿いにある、「豊川稲荷表参道商店街」の景観整備事業に携わっており、私たち学生チームが外観のデザインを担当していました。元々この商店街は、補助金に頼らないまちづくりをしていこうと、商店街や市役所の方が中心となって自主的に企画したイベントを、月に一度開催していたんです。会合は毎週開催され、そのあとの飲み会で新しいアイデアがどんどん生まれていきました。商店街の方々と関わりながら、“飲み会は大事!” “まちづくりは楽しくないと継続しない” という学びを得たのがこの頃です。

大武さんは、2016年に豊川稲荷表参道商店街を舞台に「わたしのマチオモイ帖(※1)」を制作し、2018年に豊川稲荷の境内で開催されたイベントの会場案内イラストを手がけました。

大武:会場案内を制作した「縁」というイベントに出店された方が、その後、商店街へ新規出店されたと聞き、学生時代から商店街と関わっている私にとっても、仕事以上の嬉しさを感じる出来事でした。2013年に京都市へ移住したのですが、イラストを通して地元と継続した関わりをもつことができて嬉しいです。

(※1)「わたしのマチオモイ帖」は、日本全国のデザイナー、写真家、イラストレーター、映像作家、コピーライター、編集者などプロのクリエイターが、自分にとって大切な町、ふるさとの町、学生時代を過ごした町や、今暮らす町など、各地の町で育まれた「わたしだけの思い」を小冊子や映像作品にして紹介する展覧会活動です。(HPより一部抜粋)

これまでの経験を活かし、2017年度に大武さんが制作したのが、西陣京極エリアにある飲食店の情報をまとめた「まち歩きマップ」。このプロジェクトはマップの制作だけにとどまらず、まち歩きのイベント企画へと発展していきます。

▲商店街の会長が地域の歴史について話している様子。

そのほかにも、オンラインマップ「Stroly」を活用した手描き地図とGoogleマップを連動させたプロジェクトの事例や、大武さんが趣味として関わる「上京ちず部」など、制作した地図の活用事例についてもご紹介いただきました。

商店街のマップ制作について、商店街の方々から熱い想いを受け取る一方で、資金源が補助金のみで、予算も少額なケースが多いことに課題を感じている大武さん。まちに関わるおもしろさがあるのに、他のクリエイターが参入しづらい環境はもったいない!と、お話は続きます。

大武:基本的には補助金を申請した後にマップの制作依頼が来ることがほとんどで、正直なところ、予算的に仕事として引き受けるのはしんどいなぁと思うこともあります。実際にどのくらいの費用がかかるのか、事前に相談があれば私たちもお伝えできますし、予算に合わせてどんなものが制作できるかを、こちらから提案することもできます。そのほかにも、グッズの制作・販売や、イベントを開催してお金を生み出す工夫もできますし、実際に、銭湯のロゴが入ったスマホケースの制作・販売や、ハンドタオルにロゴを印刷するワークショップなどを開催しました。

▲大武さんのマップ制作事例「松原通古今東西」

大武:イラストマップには、通常のマップに比べて、まち歩きをより楽しめる効果があると思っています。制作して終わりではなく、まち歩きイベント等に発展させながら地域の魅力を発信していけるといいですね。また、グッズ制作やイベント企画などを通して、お金を工面することは目的の1つですが、それ以上に新たなコミュニケーションが生まれるきっかけをつくれると思っています。私は、お酒は飲めないですが飲み会は好きなので、一緒に飲みながら今後も楽しくイラストやマップを制作していきたいと思います!

 

地域の良さを活かすためにある「デザイン」という手段

すみ かずき氏(KEYDESIGN 主宰)
専門学校卒業後、デザイン事務所勤務を経て2015年KEYDESIGNを設立。グラフィックデザインという手段を用いて、社会や地域、企業が抱える問題を解決するために活動中。2017年開業の「道の駅みなみやましろ村」の立ち上げなどに携わる。2016年より大阪デザイナー専門学校非常勤講師兼任。
HP: http://keydesign.jp/

兵庫県神戸市出身のすみさん。2017年に南山城村で開業した道の駅のプロジェクトに参画するにあたり、 “地域のことは住んでみないとわからない!” と、3年半前に木津川市へ移住。こだわりをもってものづくりに励む生産者の思いを、デザインの力で多くの方に届けています。

すみ:2017年に、宇治茶の主産地のひとつである南山城村の「道の駅みなみやましろ村」の立ち上げにデザイナーとして参画しました。南山城村に住む人たちは、自分たちのまちのことを「村(むら)」と呼びます。プロジェクトチームで議論を重ねていくうちに、この「村」という土地のアイデンティティを軸にプロモーションを進めていくことが決まり、道の駅で販売されているお土産のパッケージや紙袋のデザイン、商品開発などに携わりました。

すみ:京都市東山区にあるプリン屋さんのプロジェクトでは、観光で訪れた多くの方が着ている「着物」に合うような紙袋のデザインや、思わず写真を撮りたくなるような店内の仕掛けなど、プロジェクトチームで考えたアイデアが各所に反映されています。どういう人がお客さんで、どのような体験をしてもらいたいのか、人の動きを考えながら、みんなでアイデアを出し合いました。2019年4月にオープンして以降、店名のハッシュタグがつけられたInstagramの投稿は3,000件にのぼり、紙袋を見て買いに来る人たちもいらっしゃると聞いています。

▲北海道鹿部町産の昆布のパッケージ(Before)

 

地域の魅力を伝えるうえで、デザインに頼ればどうにかなるという発想ではなく、地域の良さを活かすためにデザインがあると考えるすみさん。クライアントが北海道であっても、実際に地域を訪れて肌身で土地の魅力を感じることが大切だとお話は続きます。

▲北海道鹿部町産の昆布のパッケージ(After)

すみ:北海道・鹿部町(しかべちょう)産の昆布のリブランディングの仕事では、実際に昆布が採取される現場に足を運ばせていただきました。私たちが普段口にしている昆布について、インターネットで簡単に調べることはできますが、五感を通して得る情報量とは比べ物になりません。実際に海の中の昆布は、とても大きくて力強いものなのですが、以前のパッケージでは、そうした魅力やおいしさが伝わりきっていないと感じ、中身を魅せるパッケージづくりを心がけました。

すみ:こちらは、先ほどの南山城村で地域の女性グループがつくっている手作りのこんにゃくです。左が、以前販売されていた商品に近い状態の写真ですが、つくり手の女性たちの顔写真を載せた右のパッケージに変えてからは、年間10,000個も売れるようになりました。グループの皆さんも、当初は、パッケージに自分たちの顔が写るのは恥ずかしい!と話していましたが、最近は「私が載ってるねんで!」と人に紹介してくれるようになりました。

▲パッケージデザインの変化について、つくり手の女性グループにインタビューしたときの様子。

すみ:販売数が増え、「こんにゃく芋が足りなくなった!」という嬉しい悲鳴もありました。また、パッケージの印刷部数について通常の2倍の注文があり「これは発注ミスかな?」と最初は思ったのですが、「どうせ後から必要になる」と、印刷コストを下げるための提案だったんですよね。地域の方と長期的に関わっていくなかで、こういった変化を近くで感じられるのはデザイナーとしてとても嬉しいです。

最後に、三重県伊賀市での建築分野も交えたプロジェクトの事例です。食堂だった築約130年の古民家物件を、コーヒースタンド、天ぷら屋さん、お土産屋さんが一緒になった観光客向けの複合施設として、リニューアルしました。

すみ:元々は食堂だったのですが、人通りがほとんどなく、ターゲットの設定から見直しを行いました。私自身、何かデザインを手がける時に「地域に根付いていくものをつくりたい」という気持ちがあり、近くに高校があることがこの立地の魅力ではないかと思いました。クライアントと議論を重ね、最終的には、地元のパン屋さんと共同で米粉のパンをつくり、老若男女に愛される「揚げパン」を販売するアイデアにたどり着いたんです。オープン後、多い時で1日500個売れる日もあり、なかには、朝と夕方に来るリピーター客もいると聞いています。その多くが地元のお客さんなのは、純粋に嬉しいことですね。

お二人からお話を聞いた後は、タナカさんが進行役となり、参加者を交えたクロストークが始まりました。

タナカ:チラシやマップの制作を引き受ける際に気をつけていることはありますか?

すみ:クライアントがどういう想いで取り組んでいるか、何を伝えたいのかをヒアリングすることです。ベースにある想いを伝える・届ける方法を考えるのが、デザイナーの仕事だと思っています。

大武:関わる人たちが “楽しんで” やっているかどうかは気になるところですね。熱量のある方たちとの仕事はやっぱり楽しいので。

タナカ:お二人に仕事を依頼したい場合は、どの段階で相談すればいいでしょうか?

大武:「A4両面カラーでお願いします!」と言われるよりも、できれば制作物の形式が決まる前に一度相談をいただけると嬉しいですね。そうすれば、内容についてこちらから最適なものを提案することもできます。

すみ:私も大武さんと同じで「どうにかしたい想いはあるけれど、どうしていいかわからない」という段階で相談をいただけると嬉しいです。予算が決まっている場合は、あらかじめその辺りも含めてお伝えいただければ、予算内に収まる内容でご提案もできるかと思います。

タナカ:二人は現場へ足を運ぶ方なので、飲み会の段階で相談してみるのもいいかもしれないですね(笑)。制作にかかる期間はどのくらいでしょうか。

すみ:依頼内容によりますが、北海道のプロジェクトは1年ほど、伊賀市のプロジェクトは半年ほどかかりました。

大武:土地勘や馴染みのある地域のイラストは割とすぐに描けるのですが、リサーチも含めると平均して3ヶ月くらいはかかりますね。

タナカ:アナログの地図とデジタルのツールを上手に使い分けている事例があれば教えてください。

すみ:先ほどご紹介した伊賀市の揚げパン屋さんは、若いスタッフの方がInstagramを上手に活用しています。単に投稿するだけでなく、ターゲットに対して誰が投稿しているかも大切な要素ですね。

大武:手描きの地図を「Stroly」に投稿し、オンラインマップと連動させながらまち歩きをしています。古地図でまち歩きをするのも楽しいですし、防災面で活用されている事例もあります。

ここからは、参加者も交えた質疑応答の時間です。

参加者:お二人にとって「まちづくり」の定義とは何でしょうか。

大武:住んでいる人たち、関わっている人たちが「このまちのことを好きだ」と言い続けられる状態をつくることが「まちづくり」だと考えています。その状態をイラストにしていくことで、さらに楽しい雰囲気が伝わればいいなと思います。

すみ:まずは、住んでいる人たちが楽しんで、これからも住み続けたいと思えることが大切だと思います。住民が自ら発信したくなる、発信できる状態にしていくことが「まちづくり」ではないでしょうか。

タナカ:「まちづくり」は、みんなでやっていくものだと思います。暮らしているまちの行事や課題に関わる、自分ごととして何か貢献する、ということが大切ですね。

参加者:自分が関わっている商店街や地域コミュニティを、持続可能なかたちにデザインしていきたい気持ちがあります。ですが、関わる人たちとビジョンが統一できておらず、なかなか一筋縄ではいきません。

タナカ:もし、関係者だけで取り組むのが難しいのであれば、商店街の会合をオープンにしていく方法もあると思います。セブン商店会の「未来予想図委員会」のように、外から商店街と関わりたい人たちの行き来が生まれることで、新たな取り組みやアイデアが生まれてくるのではないでしょうか。

タナカ:最後になりましたが、お二人が思うこれからの「商店街」についてお聞かせください。

すみ:地元の人たちが買い物に来ていること、生活の拠点にしていることが大切だと思います。自分自身も子どもの頃は商店街で過ごしてきた思い出があり、豆腐屋さんの大将に怒られることもありました。そういったところも含めて、商店街は地域における大切なコミュニケーションの場だと思っています。デザインという手段を使って、次の世代に誇れるような商店街にしていくためのサポートができればと思います。

大武:最初から上手くいくことばかりではないですが、いろいろと工夫できることはあると思います。私自身も商店街が好きなので、イラスト以外の方法で何ができるかをよく考えているのですが、足しげく通うのもひとつですし、そういったアイデアを飲み会で話せるといいなと思います。発想を変えながら、あの手この手で楽しい取り組みを企てていけたらいいですね。

 

ゲストお二人のお話に参加者のみなさんからは、

・他の地域の取組や、デザイン・ブランドの大切さを理解できました。
・商店街を盛り上げる方法を今一番聞きたかったので、タイムリーな話が聞けて良かったです。
・外の人より内の人を大事にすることによって自然に楽しい輪になり、そこから素敵なアイデアが生まれることを大事にしたいとつくづく思います。
・「人」「つながり」「商店街」というすべてを取り込んで想いを具体化するデザインが重要。中身のあるものは人にも伝わるのだなと感じました。
・ゲストのお二人のお話がとてもおもしろくて、また具体例たっぷりでとても参考になりました。

といった感想をいただきました。

最後の交流タイムでは、参加者の皆さんがお互いの活動の紹介や、連絡先を交換するなど、大いに会話がはずみました。

 

◇商店街創生フォーラム2020開催のご案内◇

日時:令和2年2月22日(土)13:00~17:30
場所:京都経済センター(京都市下京区四条通室町東入函谷鉾町78番地)
内容:ゲストスピーカーによるトーク、府内の商店街による活動プレゼンテーション、
   これからの商店街を考えるワークショップ
定員:100人(参加無料)
申込み方法等、詳しくは商店街創生センターホームページ(http://syoutengai-c.com/)でお知らせします。

ライター
Anna Namikawa
地域
山城

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