杉浦 悠介(すぎうら ゆうすけ)さん:愛知県豊橋市出身。立命館大学映像学部3年生、現在21歳。高校生までを地元で過ごし、「関西に行ってみたい」という気持ちがあったことと、もともとメディアに興味があったことから、数ある大学の中でもより専門的に学べる立命館大学の映像学部へ。昔からテレビっ子で、24時間テレビは24時間見てしまうタイプ。大学2年生の時から代表を務め、様々なメディアにも取り上げられた「京都お化け屋敷大作戦」は、今年で3回目を迎えた。
たった1人で始めた京都お化け屋敷大作戦
“映像学部の閉塞感を抜け出したかった”
杉浦さんの所属する映像学部は1学年100人以下。学部の中には、職人気質で自分自身の中にモチベーションを抱えている学生が多く、作品を作っても仲間内で評価して終わってしまう。皆良いものを作れるのにもったいない、と「映像学部」の名前を学校の外に出す方法を模索し始めます。
何かできないかと1年生の時に立ち上げを試みたイベントサークル。この時はチーム作りが上手くいかなかったそうですが、そこで出会った先輩が関わるファッションショーの企画運営に携わります。 イベントのノウハウを学びながら、人がやらないことをしてみたいと同時に、やるからには社会的意義のあるイベントを、と考えていたそう。
そこでお化け屋敷をしようと思い、自身のSNSで運営メンバーを募ります。 まずは1人で企画書を持って京都市内の商店街を30ほど回った、2年生の夏。前例もなければ、実績があるわけでもない。ことごとく断られ、開催を諦めかけた時に三条会商店街だけが「好きにやってみたら」と場所を提供してくれました。
-ところで、なぜ「お化け屋敷」を始めようと思ったのですか?
“お化け屋敷…僕自身が怖いと感じることがあまりないんですよね”
杉浦さんは小学生の頃からずっと文化祭などでお化け屋敷を作っていたのだとか。というのも、彼自身、お化け屋敷に対して怖いと感じることがほとんどなく、「自分が怖がるお化け屋敷を作りたい」という思いがこれまでの原動力なのだそう。
-では、「商店街でやろう」と思ったきっかけは?
“地元豊橋市の商店街で、毎年近所のおっちゃんたちが仕掛けるお化け屋敷があったんです。それが、本当にびっくりするぐらい怖くないんです(笑)それでも、そのお化け屋敷には長蛇の列ができていて。なんでみんな、こんなに並ぶんだろうって思いながら過ごしていました。でも、そのあったかい光景が今でも目に焼き付いているんです。 それを学生の街京都で、学生がやればおもしろいんじゃないかなって思いました。”
また、テレビ番組の中ではバラエティが好きで、オリンピック開閉式などの空間デザインも好きだという杉浦さん。“人の心を動かせる”演出はお化け屋敷制作にも通ずるものがあるのかもしれません。
3年間を通して感じる、商店街と自身の「変化」
今年で3回目の開催だった京都お化け屋敷大作戦。回を重ねるごとに、商店街との距離が少しずつ縮まっていきます。
3年前は初めての試みで商店街の方々に怒られて土下座したこともあったそうですが、2年目は杉浦くんが留学中にふと商店街のHPを見ると、「今年もやります」というひと言が掲載されていたのだそう。3年目は商店街のミーティングにも参加させてもらい、商店街でも大きく告知されています。
そんな変化はコラボメニューの数にも表れており、始めた当初は4店舗だったコラボが、今年は11店舗まで増えました。
この3年間杉浦くんの取り組みの軸になっている、お化け屋敷を作るというデザインの部分、商店街を元気にするという部分に対する意識に変化があったそう。1年目は前者を重視していたのですが、次第に商店街に近づけるお化け屋敷を作りたいと思うように。
また、今年は引き継ぎの年だったようで、次の世代に運営を橋渡ししていきます。 「正直今年はやるかどうかで悩んだ」と杉浦さん。継続することに意味はあるのですが、本当に大変なので覚悟が必要で。開催を決めきれなかった5月のある日にランニングをしていると、たまたま理事長に出会ったのだそう。その時、“やらなかったら何も残らない”と覚悟を決められます。
実は、杉浦さんがメインで関わる「京都お化け屋敷大作戦」としての活動は今年が最後の年。その背景には、見守る側になって初めて感じた難しさがあったようです。それでも、関わってくれたメンバーの中から「来年もやりたい!」という声がでてきたことで、来年はサポート的に続けていきたいとおっしゃいます。
商店街でも、行政でもなく、学生だからできること
非営利だからこそできること。もちろん、収支を黒字にすることはイベントの成功条件の1つではありますが、この商店街で学生がお化け屋敷を開催することは、目には見えにくいそれ以上の価値があるのではないでしょうか。
京都お化け屋敷大作戦としての3年を振り返ってみると、自分たちのミスでお客さんや商店街の方々に迷惑をかけてしまったことや、代表としての葛藤があり、なかなか思うようにいかないこともありました。それでも続けてこれたのは、励ましてくれる商店街の方々や、前のめりに関わってくれる学生メンバーがいたから。
“商店街に興味がなくてもお化け屋敷のような「きっかけ」があれば、足を運んでくれる。そこで商店街の良さにも触れてもらえれば嬉しいです。”
と笑顔で話す杉浦さん。 訪れるとほっこりでき、歩いてみると結構ちょっと変わったお店が発見できるのが商店街の好きなところなのだそう。取材の最後には、「商店街を舞台にテーマパークが作れるんじゃないかな、と思っています。」と今後の意気込みを話してくれました。
学生の「やってみたい」の延長線上に商店街があったこと。そんなところに学生と商店街が関わる可能性を感じる取材となりました。